公開日 2023年11月5日 最終更新日 2024年2月22日
前回教えてもらって
二人いた主人公を一人にしたの♪
なるほどな
普段は共感型で
活躍する時は憧れ型に
変化するわけや
――で、10人いたキャラは
何人になったんです?
えっとぉー、
9人に減ったわね!
誤差じゃないですか
えへへ♥
問題は登場人物が多いことやない
役割がなくて存在理由がないことや
キャラごとにちゃんと
魅力的な個性があるわよ!
前回教授してもらったじゃないですか
性能ではなく機能の問題ですよ
よっしゃ!
実門のマンガに登場するキャラを
適正の3人に減らすために
今回は4つの役割も教えたるっ!
……4つ?
8つでは?
すまん!
また長くなってもうて……
その分詳しく
説明してくれるって
ことでしょう?
よく言えばそうなるな
ちゃんと感謝して
心して聞くように!
はいはい
感謝感謝
ありがとう存じますっ♥
10種類の登場人物の役割をみていこう
今回は中編ということで、主人公以外の8つの役割の内の4つをお伝えしていきます。
クリックで項目に飛べるようになっているので、興味がある部分から読んでくださいね。
役割①共感型主人公
共感型主人公の具体例
役割②憧れ型主人公
憧れ型主人公の具体例
共感型主人公と憧れ型主人公の比較
↑
こちらは前回の記事で説明しています
今回はこちらの記事です
↓
役割③協力者
協力者の具体例
役割④敵対者
敵対者の具体例
役割⑤犠牲者
犠牲者の具体例
役割⑥依頼者
依頼者の具体例
次回はこちらの記事です
↓
役割⑦援助者
援助者の具体例
役割⑧対抗者
対抗者の具体例
役割⑨判定者
判定者の具体例
役割⑩庇護対象
庇護対象の具体例
協力者
協力者は、主人公の味方です。
主人公が目的を達成しようと頑張る際に、側にいて力になってくれる存在で、仲間やパートナー、バディ、パーティ、ギルドなんて呼び方もできますね。
改めて定義について調べてみました。
きょう りょく【協力】
大辞林:協力
ある目的に向かって力を合わせること。
シンプルでわかりやすいですね。
主人公一人で目的を達成することが困難でも、仲間と一緒であれば勇気が出る。目的へ向かう気持ちを増進して加速させる。
困っている時に助けてくれて、ポジティブな影響を与えてくれる存在が協力者ということです。
それでは、協力者を作る時のポイントを3つ紹介します。
ポイント①主人公と協力者は対等な関係
これは後で紹介する援助者や庇護対象の特徴を相対化した際に、如実に現れます。関係性が対等。つまり、主人公と協力者は持ちつ持たれつで支え合いながら一緒に目的に向かうということです。
全部『味方』と簡単にまとめられますが、三つの役割を簡単に説明すると・・・・・・。
協力者→主人公との関係性が対等で、立場の上下関係がない
援助者→主人公のピンチを助けてくれて、立場が強い場合が多い
庇護対象→主人公が守るべき存在で、立場が弱い場合が多い
主人公との関係性の上下で役割が決まるんですね。
『協力』と関係が深い言葉として『友情』があります。友情について面白い資料があるので、引用します。
愛情が、どちらかというと一方的な献身を駆動しているのに対して、友情はずっと相互的な献身作用となります。
ですので友情は、一方的な献身がつづくと崩れてしまう可能性があります。そこで、献身に対して献身でこたえようとする心の働きが、さらに生み出されました。
義理人情や恩です。
人は感情によって進化した P.69:石川幹人
なるほど!
関係性に優劣を作ってしまうと、友情は壊れてしまう。師弟関係なら問題はないですが、それはもう友達ではないということでしょう。
ただ実際に物語を作っていると、主人公と協力者の間に能力や活躍の差が生まれて、上下関係が生まれてきてしまいそうです。
それを解決する方法があります。
ポイント②協力者の能力に専門性を持たせる
同じ性格や能力のキャラクターが複数いても、できる仕事や考え方が同じではあまり効果的ではありません。かといって、能力に大きな差を付けると上下関係が生まれるという問題が発生します。
その解決方法はそのキャラクターの専門性を作ることです。
例として、一番参考になるのは大人気マンガ『ONE PIECE』の麦わらの一味の構成です。現時点で10人いる仲間達に立場としての上下は軽くあるものの、一人一人にしかできない仕事が割り振られています。
凄い差別化ですよね。
一人一人の仕事、つまり専門性が異なっているので、欠けることの許されない存在として設定されています。お互いに得意の分野ごとに支え合うことができるのです。
もし、このメンバー全員が専門性のない無職だったとしたらどうでしょうか?
航路では迷うし、料理は不味い。遠くの敵には反撃すらできない。歴史から学ぶこともせずに、荒波に飲まれて酔ってしまう。体調が悪くなり病気になっても治らない。気分が落ち込んでも楽しくなる音楽もない。また、船長もいないので何事も決定できない。
こんな海賊団がひとつなぎの大秘宝を手に入れられるはずがないですよね。
ただ、協力者の能力が高すぎるとそれはそれで問題が起きます。あくまでも協力者はサポートに徹する必要があるからです。
主人公と脇役たちの活躍する度合いについては考えておく必要があります。
ポイント③都合の良い存在にしない
主人公が困った時に、協力者が無条件で奉仕してくれるとご都合主義だと思われてしまいます。彼らなりに協力する理由が必要です。
もちろん、友達だからというのも悪くはないのですが、物語内で友達部分をしっかりと描写されていないと説得力がありません。
先ほど例に出した『ONE PIECE』では、それぞれの船員が違う夢を持っています。なのに一緒に行動しているのは何故か? それは船長であるルフィの『海賊王』になる夢が叶うことで、自分たちの夢も叶うからです。
つまり、利害が一致しているんです。
確かにそうすれば、協力関係になるのも納得がいきますね。ただ、短い物語の場合や個人的な目的を持っている場合は、利害を一致させるのが難しいでしょう。
そこで有効な方法は交換条件や約束の形を取ることです。
『Aをしてもらうかわりに、Bをしてあげる』、このような約束事をすることで協力が自然に表現できます。
「――ったく、仕方ねぇなぁ。
今度、飯おごれよ!」
こういうことですね。
交換条件や約束をする場合は、友達じゃなくても、知り合いレベルの関係性でも協力者になってくれるので便利です。仕事の付き合いであっても、協力者になれますから。
協力者の具体例
『ぼっち・ざ・ろっく!』は、2022秋の覇権アニメです。主人公の後藤ひとりの個性(ぼっち)が際立っており、多くの視聴者の支持を得ました。『ぼっち』というのは、『一人ぼっち』からきている用語で、近年(2010年頃)使われ始めた比較的新しい言葉です。
新しい言葉は新しい概念を表現しているので、鮮度が高く関心を持たれやすいです。時代感も出るので、今だからこそできる表現になるのも良い点です。
一方で、新しいということは古くなるということでもあるので、賞味期限が切れるリスクもあるという意識が必要です。なので、長い期間流行りそうな言葉かどうかを見極める先見性が求められるのです。
簡単なあらすじ
ぼっちな中学生『後藤ひとり』はテレビで、地味なのに注目されているロックバンドを見たことで、『自分もロックをすれば人気者になれる』と思い込む。そして、3年間毎日6時間ギター練習し続けて動画をネットに投稿したことで、一部には軽く知られた存在になった。だが、リアル(高校生活)では音楽をしているアピールをしても誰も声を掛けてくれずにぼっちのままだった。
ある日、『伊地知虹夏』にライブに誘われたことがきっかけで、仲間と一緒に武道館ライブを目指すことになる。
学園モノの物語において、主人公は同級生や先輩後輩などの協力者を作りやすい環境にあります。先輩は年上ですが歳が大きく離れていないこともあり、後に紹介する援助者ほど能力の差がありません。
今作『ぼっち・ざ・ろっく!』は、バンド活動という題材ということもあり、主人公と同級生以外の二人は別の高校に通っています。
ですが、歳の差は一歳しか違わず、主人公のバンド経験が長いということもあり、軽い上下関係があるのも特徴です。
構造として面白いのは普段はぼっちでコミュ障の主人公の能力が飛び抜けて高いこと。中学時代から3年間毎日6時間もギターの練習をしていてネットではちょっとした有名人です。
一方で、いざ本番になると他のメンバーに合わせることができないぼっちぶりを発揮するなど、精神面に弱点があり、仲間の助けがまだまだ不可欠。
このように、ある部分では主人公は支えられ、ある部分では主人公が支えるという対等な関係が協力者の特徴です。
敵対者
敵対者という言葉でイメージしにくければ、対立者と考えてください。
対立とは、以下の意味を持っています。
たい りつ【対立】
二つの反対の立場にあるものが並び立っていること。互いに相いれないものが向かい合っていること。対峙 (たいじ)。
大辞林:対立
相容れないものが向かい合っていると、目的が達成できません。主人公の目的の前に立ちはだかる存在は、障害と呼んでも差し支えないでしょう。
主人公は目的に向かって進む中で、障害になる存在と対立しながら試行錯誤するのです。
しょうがい【障害】
岩波国語辞典:障害
正常な進行や活動の妨げとなるもの。
大分、イメージが掴めてきましたね。
敵対者とは、主人公と対立する存在であり、障害を擬人化した者である。
丁度、協力者と反対の役割を果たします。
協力者が主人公の目的達成に対してポジティブな影響を与えるのであれば、こちらはネガティブな影響を与えます。
それでは、敵対者を作る時のポイントを3つ紹介します。
ポイント①主人公の邪魔さえすれば敵対者
今回はキャラクターの役割ということで、各役割の人物像について紹介しています。ですが、物語の機能として考えるのであれば、必ずしも人物である必要はないのです。
つまり、主人公や協力者も人間でなくても良いということです。自然でも動物でもモノでも概念でも良い。
例えば困っている時に、自分を励ましてくれるものが、日めくりカレンダーに書いてある言葉であれば、それが協力者や援助者のような自分をポジティブな状態にしてくれている役割を果たしているのです。
同じく敵対者も必ずしも人間である必要はありません。
彼氏とのデートに遅れそうなヒロインが家を出ると大雨が降っている。この大雨も敵対者です。
敵と聞くとボスや武器を持っているモンスターを思い浮かべますが、主人公の障害になっていれば敵対者になります。
ドラマ重視の物語の場合は、『前向きな自分』と『後ろ向きな自分』のように主人公が二つの感情・価値観の中で葛藤します。この『後ろ向きな自分』も敵対者です。自分の中に敵対者がいると判断できます。
敵対者の幅広さをご理解していただいたと思います。
また、物語の中で敵対者はどれだけ多く登場しても構いません。障害は大きいほど、数が多いほど物語は面白くなります。
物語においては、【面白さ=障害の克服】と考えても良いくらいです。
障害が大きく乗り越えるのが難しいと、主人公はどうすれば良いのか悩み苦しみます。そして試行錯誤して乗り越えることで達成感が生まれるのです。
ただ、大きな障害はその分乗り越えるのが難しくなるので、時間が掛かります。つまり、作中で大きい障害をいくつも作るのは難しいのです。結果として質と量はトレードオフの関係になります。
さて、どんな敵対者が登場すれば物語を面白くするでしょうか?
ポイント②強い信念を持っている
先ほど、敵対者は人間ではなくても良いと書きました。なら、強い信念を持っているというのは矛盾しているように感じるかもしれません。
実は物語においては、自然や無機物、複雑な感情を持っていない動物を人間のように書くことは往々にしてあります。
例えば『神』なんかはまさに、自然現象を擬人化したものです。具体的にはハーマン・メルヴィルの海洋冒険小説『白鯨』が登場する巨大な鯨を神になぞらえています。
他にも、モノや動物に意志を持たせるように表現した作品は多くあります。
主人公が対立する敵対者は何らかの強い信念を持っている方が、張り合いが出て面白みが増すのです。
アンチテーゼという言葉を聞いたことはありますか?
アンチテーゼ〖(ドイツ) Antithese〗
大辞林:アンチテーゼ
(1)〘哲〙 反定立 (はんていりつ)に同じ。→ 正反合
(2)ある理論・主張を否定するために提出される反対の理論・主張。
難しい言葉ですが、意味はある主張に対立する意見という意味です。
主人公は目的を達成しようという強い信念を持っている。そして、その前に立ち塞がる障害である敵対者も強い信念を持っている。
【面白さ=障害の克服】という方程式がありましたよね。
この方程式を成り立たせるには、敵対者は主人公に負けないくらい強い信念を持っていないといけないということです。
主人公とぶつかって、すぐにお手上げという敵対者は障害として面白くないのです。
では、敵対者にはどんな信念を持たせると良いでしょう?
ここは主人公と正反対の信念ということが大事です。
主人公と敵対者は『同じ問題に対して、違う答えを持っている』のです。
主人公「仲間が大事だ!」
敵対者「仲間は捨て駒だ!」
主人公「結婚して子供を育てたい!」
敵対者「恋愛は遊びで子供は邪魔でしかない!」
主人公「夢を叶えるために頑張るぞ!」
敵対者「夢を追うのは時間の無駄だ!」
主人公「お金よりも大切なものがある!」
敵対者「お金が何よりも重要だ!」
信念がぶつかり合うからこそ、物語の展開がどうなるかが気になるわけです。
主人公に一瞬で論破されて「やっぱり、俺様が間違っていた。結婚して子供育てたい!!」と、簡単に意見を変えられても面白くありません。
敵対者は主人公と同じ問題に対して、強い信念がある。だからこそ、鏡に映ったもう一人の主人公と考えることができるのです。
そうなると、気になるのは敵対者が強い信念を持っている理由。その動機を書くか否か、ここが重要です。
ポイント③動機を書くか問題
敵対者を描写するに当たって二通りの方法が考えられます。徹底的な悪として描く方法と、人間らしい部分をしっかりと描く方法です。
前者は勧善懲悪モノの物語に向いています。スタイルでいうと、ストーリー重視にあたります。後者は、人間の弱さが悪に繋がると考えるので、ドラマ重視です。
ストーリー重視→敵対者は(障害として)強いヤツ。強敵。勧善懲悪。
ドラマ重視→敵対者は(人間として)弱いヤツ。人間味のある敵。善悪混淆。
お気づきの方がいると思いますが、これは二種類の主人公の描き分け方に似ていますね。
ストーリー重視→憧れ型主人公。
ドラマ重視→共感型主人公。
敵対者を徹底的な悪として描写する場合は、どうやって倒すのか? が焦点になります。こんな凶悪で強い相手を主人公は倒せるのか?
また、台風や地震といった自然災害や大きなクジラや猛獣を敵対者として扱う場合も同じです。お客様は動機よりも、主人公が問題をどう克服するのかを気にします。
一方で、敵対者を(人間味のある)弱いヤツとして描く場合は、しっかりと対立する過去や理由を描かなければなりません。もちろん、共感させすぎると感情移入してしまい後味の悪い物語になるので、主人公が敵対者を倒しても爽快感は減ります。その分、強いドラマ性が生まれてメッセージ性は高まります。
例えば、主人公の過去に犯した許されない罪(イジメ・万引きなど)が自身を苦しめる物語や、元々は仲の良い親友だったが、急に自分に対して攻撃的になった幼なじみとの物語などは、敵対者の動機が重要となります。
さて、敵対者を描写するヒントがあるので引用してみましょう。
ドイツの哲学者兼心理学者でもあったエーリッヒ・ゼーリマン・フロムは、「悪の究極は〈自己中心性〉である」と言いました。
(中略)
しかしながら、脚本に「ジコチュー」な人物を出せば魅力的な悪や敵対者が描けるとは限りません。悪と悪玉は必ずしもイコールではありませんし、忠誠心が悪行に繋がることもあれば、同情心が悪意を生み出すこともあるからです。
スクリプトドクターの脚本教室・中級篇 P.197:三宅 隆太
自己中心的であることが、悪の究極なのです。
犯罪心理学や臨床心理学において2002年頃から研究されているダークトライアドについて紹介しましょう。敵対者を描く際のヒントになります。
1.サイコパシー(罪悪感や感情の欠如)
2.ナルシシズム(異常に高い自己評価)
3.マキャベリズム(自己利益最優先)
いずれかの要素を持たせることで、強い敵対者として説得力のある描写ができそうですね。凶悪な存在としてインパクトを狙うなら全ての特徴を持たせるのも良いでしょう。
ただ、『ジコチュー』なだけでは魅力的な敵対者になるとは限らないと言及されています。大事なのは、表現したい内容に適したバランスになるのでしょう。
さて、敵対者の動機を描くかどうかは、バランスと重視するスタイル次第という結論になりました。
それでは、3つのポイントをまとめてみましょう。
敵対者の具体例
『るろうに剣心 –明治剣客浪漫譚–』は週刊少年ジャンプで1994年から1999年まで連載された和月 伸宏氏の大人気マンガ作品です。2023年に再度アニメ化されたこともあり、未だにその注目度は衰えていません。アニメ化・実写映画化・新章連載・再アニメ化と何度も繰り返しながら、多くのファンを楽しませています。
作品内で主人公と並ぶほど人気なキャラクターがいます。カリスマ性の高い悪役の志々雄真実です。『敵キャラ人気ランキング!最も愛される悪役キャラは?(投票数2,467)』において25位と健闘しています。
簡単なあらすじ
主人公・緋村剣心はかつて『人斬り抜刀斎』として名を馳せた幕末最強の剣士。しかし、現在は過去を悔やみ不殺の誓いを立てている。そんな中で、剣心の後継者として『影の人斬り役』を務めたが、新政府に邪魔者扱いされて全身に火を付けられて大火傷を負った志々雄真実が、復讐のために日本征服を企てていた。『弱肉強食』という信条を掲げる志々雄と『弱き者を守る』という不殺の剣心は戦うことになるのだった。
主人公・剣心と対極の価値観を持つ存在として、志々雄真実は最適な敵対者です。剣心と志々雄は同じ維新志士であるという点も対比として重要な役割を果たしています。
志々雄は過去に仲間を信頼した結果、裏切られて全身に大火傷を負いました。包帯で体中を巻いているインパクトのある外見はその傷を隠すものです。
こういった過去の経験から、仲間を信用せずに力こそが全てという思想になりました。
志々雄は過去の経験を描写されることで、そのキャラクターに説得力が与えられています。そんな経験をしたら、そういう思想になっても仕方がないという具合です。動機が明らかなパターンですね。
「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ」という信条はある種の哲学であり、志々雄真実の名前にもある通り真実でもあります。
最強の敵として立ちはだかるからこそ、乗り越えた時に強いメッセージ性が浮かび上がります。敵対者を考える際は、能力だけでなく信念も強いものにしましょう。
犠牲者
物語の中で、敵対者によって身体を攻撃されたり、大切なものを奪われるのが犠牲者です。
犠牲者について大辞林にて引用します。
ぎせいしゃ【犠牲者】
大辞林:犠牲者
戦争や災害などで死んだり、大きな被害を受けたりした人。
スケールが大きいですね。
物語としての犠牲者はもっと柔軟に考えても良いでしょう。
例えば、主人公を庇って身代わりに怒られてしまったり、川で溺れている子供を助けて風邪を引いてしまったりするキャラも犠牲者と考えられます。
必ずしも大怪我をしたり、死んでしまったりする必要はないということですね。
登場人物が犠牲者になることによって得られる効果は複数あります。
最も重要なのは、主人公の動機や信念の強化する役割です。犠牲になった仲間のために奮闘する展開がよくあります。自分のためではなく、仲間のためなら頑張れるのです。
また、重要なキャラクターが犠牲になることで、お客様に強い印象を残すことができますよね。
それでは、犠牲者を作る時のポイントを3つ紹介します。
ポイント①動機の強化
先ほどお伝えしたように、キャラクターが犠牲者になることで、主人公の動機や信念が強まります。散っていった仲間の気持ちが自分自身の中に入っていくというイメージでしょうか。
『あいつの分まで、俺が背負って頑張る』という展開はよく見ますよね。
人間は社会的な生き物です。なので、他者の感情や想いを共有することができます。物語の途中で犠牲になって退場した仲間の伝言や遺言を聞いて、目的を達成しなければならないという使命感を抱く主人公の気持ちは理解・共感できるでしょう。
物語において、主人公の動機を描写する際に過去シーンを挟むことが良くあります。この過去シーンにおいて、犠牲者を用いることは非常に高い効果があります。
過去シーンの名手・尾田栄一郎氏の『ONE PIECE』ではとても上手く活用されていますね。軽いネタバレになりますが、各キャラクター達の過去においで、誰がどのような犠牲者になったかを確認してみましょう。
このように彼らのキャラクター性において、犠牲者の影響がいかに大きいかがわかりますね。確かに現実世界でも、人が大きく変わるのは大切な人との別れかもしれません。
主人公の行動に今いち説得力がない時は、大切なモノを失わせる展開を組み込んでみてはどうでしょうか?
ポイント②感動(テーマ)を伝える
犠牲者が死ぬ際の最期の言葉は、感動を誘います。
なぜでしょうか?
それは、今まで言えなかったことを伝えられるからです。
人は誰しもが本音と建て前を持っています。そして、本音をぶつけることに恥じらいや遠慮があります。そのため、よっぽど親密でなければ100%の本音を伝えられることはないのです。
いえ、むしろ親密だからこそ直接伝えることは少ないかもしれないですね。
A「お前のことをとっても、大切に思ってるよ!」
B「俺だって、お前が一番の親友で誇らしいぜ!」
日常の中でこんなセリフを掛け合っている関係は違和感があります。ですが、これが死の淵だったらどうでしょう? 重病でベッドに寝ている青年がA、お見舞いに来ている親友がBです。
説明臭いとは思いますが、違和感は消えたのではないでしょうか?
なぜかというと、死に際になると恥じらいや遠慮がなくなるからですね。もう先がないので、意地を張ってても仕方がないのです。だから、本音でぶつかることができます。
死に際には、ずっと言いたかったけど、言えなかったことが口にできるんです。
・約束をしたのに守れなくてごめんね・・・・・・
・一度も言わなかったけど、あの時に助けてくれて嬉しかったよ・・・・・・
・キミに出会えたことが、人生で一番の幸運だと思ってるんだ・・・・・・
ずっと心の中にあった気持ちを最期に発露する。言いたくても言えなかったことほど効果的です。
気を付けないといけないことは、ベラベラと心情を全部説明しすぎることでしょうか。
あまりにしつこく描写すると、くどくなって興ざめしてしまいますので。
いずれ『感動』についてまとめた記事を書きますが、ここでは軽く感動の法則について触れておきます。
「感動」とは、「想い/願いを達成した」「喜び」です。社会性を持った人間の最も強い欲望は「コミュニケーション」・・・・・・「伝える欲望」です。
超簡単!売れるストーリー&キャラクターの作り方 P.185:沼田やすひろ
意思(心)が通じた時に人は感動する仕組みがあるんですね。
ちなみに『意思が通じる』までは、対極にある『意思が通じない』を描写しないといけません。意思が通じない『拒絶』をしっかりと強調するからこそ、最後に意思が通じた時に感動が生まれるのです。
・マンガ家の夢を認めなかった父親の遺品を整理したら(拒絶)、
自分が出版した単行本を全て揃えてくれていた(感動)
・結婚してから一度も愛してると言ってくれない夫が(拒絶)、
死に際に愛してると言ってくれた(感動)
・自分に懐いていないと思っていた余命僅かな老犬が(拒絶)、
海外留学から帰ってきた時に尻尾を振って飛びかかり喜んでくれた(感動)
キャラクターが死ぬから感動するのではありません。
キャラクターが死ぬ際に、心が通じるから感動するのです。
主人公が犠牲者と心を通じ合わせるシーンを作ってみましょう。
ポイント③役割が終わったキャラクターの最後の仕事
後に紹介する援助者や対抗者は、物語後半まで主人公の側で活躍し続けると邪魔者になります。
援助者が主人公を助け続けるとピンチが作れないですし、対抗者は魅力的なキャラクターである場合が多いので、主人公の活躍の場を奪います。
そういった魅力的だが物語の展開上で役割を失ったキャラクターの最後の大仕事が、犠牲者になることです。
例えば、敵対者が主人公の大切な仲間である援助者や対抗者を殺して犠牲者にするとどうなるでしょう?
ポイント①②でお伝えした『動機の強化』と『感動』が作れるということですね。
また、大切な仲間を殺した敵対者に憎悪の感情を作り出すことができれば、主人公への感情移入や目的を達成した時の浄化を提供といった効果が期待できるのです。
せっかく作ったキャラクターを殺すのは辛いことです。ですが、物語をより面白くするのであれば、覚悟を持って犠牲者の役割を与えることも作家の仕事です。
犠牲者の具体例
2012年に公開された『アベンジャーズ』は画期的な映画でした。『アイアンマン』、『インクレディブル・ハルク』、『マイティ・ソー』、『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』といった個別のアメコミ映画の主人公が集結して、地球の侵略者と戦う物語です。
このお祭り感が漂うオールスターは、ファンにとっては夢の様な企画です。ですが、制作予算や権利の問題などを考えるとそう簡単に実現可能なものではなかったのです。今回はマーベル・スタジオがそれぞれの映画を独立制作したことで夢が叶いました。全世界興収10億ドル最速突破、歴代映画世界ランキング10位と偉大な結果も達成しました。
単独で主役を張れるアクの強い個性的なヒーローが集まっているからこそ、協力しないといけない状況で喧嘩して対立してしまいます。彼らをまとめ上げるのは脅威ではなく、仲間の犠牲でした。
簡単なあらすじ
地球が宇宙人に侵略される危機に晒された。地球を守るために、ヒーローが集結するが、それぞれ心の問題を抱えていることもあり、チームとしてはバラバラだった。そんな時に、国際平和維持組織『S.H.I.E.L.D.』の若きエージェントであるフィル・コールソンが敵対者であるロキに攻撃されて死亡してしまう。彼の死を契機にアイアンマンとキャプテン・アメリカは協力して敵と戦う決意をする。まさに彼らは報復者達であった。
今作において特別な力を持っていないエージェントであるフィル・コールソンには大した役目は期待できませんでした。他に登場するヒーロー達に比べてできることがありません。
しかし、自らの命を賭して敵対者に立ち向かったことで、崩壊直前のヒーロー達を一つにまとめ上げる大活躍をしたのです。それも台詞を聞く限り、意図的な計算があったことが窺えます。
犠牲者は物語から離脱してしまいますが、残っているキャラクターに多大な影響を与えます。死んでしまったからといって、その精神性は決して物語から消えるわけではないのです。
依頼者
物語創作者にとって依頼者ほど便利な存在はありません。
まずは、いつも通り依頼について調べてみましょう。
いらい【依頼】
岩波国語辞典:依頼
①用件などを人にたのむこと。
②人にたよること。
つまり、主人公にきっかけを与える役割ですね。
物語中に起こる様々な出来事を教えてくれたり、主人公を冒険へ誘う役割も果たします。ヒント・忠告・命令をくれる存在なのです。
ちなみに先ほど説明した犠牲者と併用することで、最強の依頼『遺言』になります。
犠牲者×依頼者=遺言
遺言のパワーは強くて、断り辛いので主人公を動かすきっかけとして効果的ですね。
それでは、依頼者を作る時のポイントを3つ紹介します。
ポイント①目的のきっかけとなる
主人公に目的がない場合や、一つの方向に向かっている際に方向転換してもらう場合に、依頼者が仕事をします。
具体例をみてみましょう。
こういった依頼者によって、主人公は非日常の世界に入っていくわけですね。こうしてみると、可愛いヒロインと依頼者の相性が良いことが窺えます。
ちなみに少女マンガの場合は、非日常へ誘うキャラクターはクラスの人気者のイケメンになります。ヒロインの魅力に気付いて『おもしれー女』と評価してくれる存在ですね。
何も依頼してくるのは美少女やイケメンだけではありません。
職業モノでは、上司や部下が頼み事や命令をしてきます。仕事をしているとお客様から、色々な注文やクレームを受けます。これも依頼者です。
受け身な主人公を動かす方法が依頼者ということですね。
実はヒーローモノも受け身なので、意外と依頼者の活躍の場は広いのです。
他にもこんな使い方があります。
直接的ではなく、第三者を依頼の間に挟み目的を作る場合です。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ (しょうをいんとほっすればまずうまをいよ)
明鏡ことわざ成句使い方辞典:将を射んと欲すれば先ず馬を射よ
大きな目標を達成するためには、対象に直接当たるより、その周辺の問題から片づけていくほうがよい。
例えば、主人公が頑固親父だとしましょう。息子は東京ディズニーランドに連れて行って欲しいと依頼しますが無下に断ります。その際に、息子は父親を攻めるのではなく、父親が抵抗できない相手を攻めるのです。つまり、父親の父親である祖父です。
1.父親→息子の依頼は断る
2.息子→祖父に父親への依頼をする
3.祖父→父親に命令(依頼)する
4.父親→息子の依頼(東京ディズニーランド)を断れなくなる
まさに『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』作戦です。
こういった依頼者の使い方もあります。
このような目的のきっかけを与えることで、キャラクターが自然に動き出します。
右に絶対行かない主人公を右に進ませるにはどうすればいいか? という問題が生じた際に、依頼者を使うと良いということですね。
ポイント②主人公の意志決定を表現
主人公の価値観を表現するのにも依頼者は使えます。
依頼者が何かを主人公に頼む際に、条件を付けるとします。この条件次第で主人公が依頼を受けるかどうかを判断することで、価値基準を明確にできるのです。
例えば、「100万円」では依頼を受けなかった主人公が、「500万円」でなら依頼を受けるとします。そうすると、主人公の金銭感覚や依頼の内容の難易度の見積もりを知ることができるのです。
よくあるのは、お金では一切動かなかった主人公が、依頼者の切なる願いや想いを聞いて、一転して依頼を引き受けるというものです。これらは主人公の善性を表現するのに適しています。
効果的な演出として、最初主人公は依頼を断りますが、後に出てきた新情報を聞いて、都合が変わって依頼を受けるパターンがあります。
これもご都合主義の展開を避けて、主人公の意志決定を表現する方法ですね。
交換条件や取引、契約などを依頼者と交わすことで、価値観を表現できるのです。
ポイント③敵か味方かわからない
契約として有名なのはドイツの文人ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの代表作『ファウスト』でしょう。この作品の中で、主人公・ファウスト博士は悪魔・メフィストフェレスを召喚し契約を結びます。
地上の快楽を体験し尽くす代償として、魂を売るのです。
このように、依頼者は必ずしも主人公の味方ではありません。ここが援助者との決定的な違いですね。
援助者は主人公の目的達成にポジティブな影響を与える。しかし、依頼者の影響は必ずしもポジティブとは限らない。悪魔の誘惑の場合がある。
そのため、物語の中で依頼者が登場すると緊張感が生まれます。お客様も自分の経験と照らし合わせて、無闇に信じるべきではないと判断するからです。
困っている主人公の元に現れて、甘い言葉で誘惑する依頼者。信じるか疑うか、主人公は葛藤するでしょう。ここでもキャラクター性を表現できますね。
ただ、『甘い話には裏がある』という言葉を忘れないようにしましょう。
依頼者の具体例
『魔法少女まどか☆マギカ』は2011年に発表されたアニメで、放送当時から話題になるほど注目されている作品でした。後に「発表!あなたが選ぶアニメベスト100」男性票1位、総合ランキング3位を獲得するなど評価が高かったことがわかります。
いわゆるきらら系の『ひだまりスケッチ』の原作者であり漫画家の蒼樹うめ氏が可愛いキャラクターデザインを手掛け、シリアスで容赦のないストーリーで有名なニトロプラス所属の虚淵玄氏が原作を務めました。また、戦闘シーンは独特な世界観を持つ劇団イヌカレーが担当しています。
つまり、可愛い絵柄にホイホイと集まったオタク達に、どうしようもない絶望感を与えるストーリーを突きつけて、それでもラストには救いのある展開を用意していたという荒技を発揮した作品なのです。
簡単なあらすじ
優しくてのんびり屋さんの中学生二年生・鹿目まどかは不思議な転校生と出会う。彼女は夢で見た少女だった。ある日、友人と遊びに出かけた先で、白いウサギのような生き物に助けを求められる。その生き物『キュウべぇ』は、転校生の少女に命を狙われていた。彼女から逃げるまどか達は魔女に襲われたところを、魔法少女・巴マミに助けられる。キュウべぇはマミに傷を癒やしてもらうと、まどかと友人に依頼を持ちかけた。
「僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ」
可愛いデザインのキュウべえは、作中で何度も主人公である鹿目まどかに契約を持ちかけます。しかし、謎の転校生は決して契約してはならないとまどかに忠告するのです。
キュウべえは、願い事をひとつだけ叶えてくれる代わりに、魔法少女になって欲しいと依頼してきます。願い事がなかったまどかは好奇心から魔法少女に興味を抱きますが、絶望的な展開を前にして考えを改めます。
この敵か味方かわからないキュウべぇは、依頼者として終始物語に関わり続ける珍しいパターン。理由は、ネタバレになりますがキュウべえこそが真の敵対者だからです。
最終的にまどかは依頼を受けるのか断るのか。自分自身の目で確かめてくださいね。
おわりに
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
短い記事にするつもりが長くなってしまいました。反省しております。
次回が最後になります。
『援助者・対抗者・判定者・庇護対象』を説明するので、楽しみにしていてください。
月見物語神社:夜更け
それにしても敵対者って
やっかいだわ
――その心は?
時間・健康・お金
すべてあたしの敵対者よ!
マンガを描いてるから〆切りに追われ
徹夜で健康を失い
ストレスでお酒に逃げて散財
なんや
マンガ家目指すのを
辞めたら全部解決やん♪
ひどいわ月狐!
あなたは敵対者なの?
ウチは援助者
ゆうてるやん!
そうですよ
オレたちは夢を追う協力者
ミカ姉はマンガ家
オレは小説家
月狐は月見物語神社の繁栄だもんね♪
犠牲者がいれば
動機が強化されるんですけど・・・・・・
じーーーーっ・・・・・・
なんや二人揃って・・・・・・
!?
パイプでぽこぽこすんな!
そんなんで犠牲者になるかい!
鳳堂 志幻
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参考資料:
・スクリプトドクターの脚本教室・中級篇 三宅 隆太 (著)
・超簡単!売れるストーリー&キャラクターの作り方 沼田やすひろ (著)
・人は感情によって進化した 石川幹人 (著)
使用したロゴデザイン:
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